虚船








「今度は、遠野家が後援で夏祭りを行いませんか?兄さん」

 浴衣姿の秋葉が俺を振り返ってそう話しかけてくる。
 空を彩る色とりどりの花火――夏の月の浮かぶ闇の天蓋に描かれた儚い光の
模様を眺めていた秋葉は、この夏祭りを酷く気に入ったようだった。

 秋葉は浴衣姿で、いつものヘアバンドと違って髪を横に結わえていた。こう
いう髪型の秋葉は初めてであり、俺と一つしか違わないのに時には俺より年上
に見える事もある秋葉とちがって、年相応に少女らしい可愛さがあった。

 まるで、いつもの秋葉ではないような。

 秋葉が髪を流していないのは、こういう夜祭りに町でも知られた遠野のお嬢
様がやってきていると気付かれたくない、という心の現れかも知れない。もと
もと秋葉は県外の学校から車で町を素通りするだけだから、普通のままでも気
がつかないんじゃ?と思うけども……

「ああ、それはいいね」

 俺は秋葉に返事をするが、なんとなく気の抜けた生返事になってしまう。
 俺は秋葉の後ろに立ち、秋葉の姿を見つめていた。天空の芸術よりも、この
地上の上の秋葉の方が遙かに貴重な芸術であるようにも……思える。

 浴衣姿の秋葉は肩幅の細く、すらりとした身体のラインは滑るようであった。
夜の鎮守の森、だれもいないこの特等席は灯りもなく薄暗かったが、秋葉の姿
は花火のほのかな光に照らされ、浮かび上がっている。

 振り返った秋葉の髪が、湿気の多い夏の風の中でもさらりと流れた。
 いつもは髪に隠された秋葉の襟足が、うなじが俺の目に入る。明るい光に照ら
されている訳ではなかったが、この杜の翳りの中で秋葉の肌は浮き上がるように
――

 俺は、心臓がどくんと脈打つのを感じる。
 なんで、こんなに――妹である秋葉が艶めかしく感じるんだろう?

 ――わからない

「兄さん、どうなさったのですか?」

 秋葉は俺の顔をきょとんとして見つめている。
 無理もない。だって、秋葉は俺が見とれていると気がついてはいない……

 秋葉は団扇を軽く扇ぎ、涼を得ながら俺のことを見つめていた。不安そうに、
と言う訳ではなく、俺が何かを言い出すのを待っているかのように。
 だが、俺がなんとも口を開かないのを見ると、秋葉は気にしない素振りを装って
話を続ける。

「花火も、うちの裏山から上げさせます。今より立派な花火にすれば、この町
の人はみんな喜びますし……それに、兄さんと一緒に屋敷で花火を見られるん
です。
 素敵だと思いませんか?兄さん」

 秋葉はそういって俺に尋ねてきた。
 今日の秋葉は物腰が柔らかく、俺に対して険しいところを見せない。こんな
少女らしい髪型のせいか、俺は――秋葉の中に、妹、いや女性の、みずみずしい
肌の中の甘い果実をを感じていた。

 ――何を考えているんだ、俺は

 俺は頭を振ってそんな考えを追い出そうとする。だが、この鎮守の森の闇は、
俺の中に染み込んできてこんな事を囁きかける。どうした?志貴、それはお前
の獲物じゃないか、忌むべき異種だ、お前はそれの生殺与奪を握っているじゃ
ないか?

「秋葉……」
「兄さん?」

 俺は答えるでもなくそういった。この言葉の後、俺はなんと言おうと思った
のだろうか?逃げろと?それとも……
 秋葉は俺の方に向き直り、しげしげと上から下まで答えのない俺を見つめる。

 秋葉は……空と麓の灯りを背に背負い、その姿が浮かび上がっている。
 俺の目の前で、秋葉の細い首、薄い胸、なだらかな腰、すらりと伸びた足を
まるで見せつけるような――

 この場所に、誰もいないから俺は俺を抑えきれないのだろうか?
 わからない。ただ……

「秋葉、それはどうかなぁ」

 俺の口は薄く曲がってそう言うと、足を秋葉に向けて進める。何か、まるで
別の衝動が俺の身体を動かしているような……そして、頭では間違っていること
は分かっていても、身体はこれが正しい動きであるのかを知っているかのような、
そんな俺の中のちぐはぐな様子。

 わからない。

「……どうしてですか?兄さん?」

 秋葉は自分の提案に反対されたと思ったのか、僅かに機嫌を崩して俺に尋ねて
くる。顎を引いて俺を眺める視線さえも、まるで俺を焦らして誘っているかの
ような――
 風が流れ――秋葉の薫りを感じる。香水の香りと、その中の隠しきれない女性
の肌の薫り。いつもは感じないけども、この森の清浄な空気の中ではまるで媚薬
のような甘い香り。

「屋敷から花火が見えるのは、悪くないかも知れないけどね。そうなると……」

 俺は秋葉の肩に手が届く程に近寄ると、手を無造作に伸ばして秋葉の背中に
回す。
 そして、ぐいっと引き寄せると――秋葉を腕の中に納める。

 秋葉の体重がぽすんと俺の胸に懸かる。秋葉は躓いたように俺の胸に崩れか
かる。
 俺は秋葉の背中に回したささえ、俺の胸に手をつこうとした秋葉の腕を取った。

 団扇が――空気の中を舞いながら森の下生えの中に落ちる。

「そうなると、こんなに可愛い秋葉の浴衣姿を見られなくなるじゃないか」

 俺はそう言ってうっすらと笑うと、吃驚したような顔で俺の行動に戸惑う秋葉
をより力強く抱きしめる。背中に腕を回され、腕を取られた秋葉は浴衣の姿の、
俺の囚われ人になっていた。

 秋葉は背中を反らして俺から遠ざかろうとしたが――無駄なことだった。

「兄さん?いったい何を……」
「こんな可愛い秋葉は初めてだから……ずっと俺の物にしたくて……」

 ――どうしてしまったんだろう?俺は

 わからない――

 俺は秋葉に顔を近づけると、そのまま秋葉の唇を奪った。
 秋葉は目を閉じることなく、俺の顔を見つめていた。唇が触れるときも抵抗
はなかったが、舌が秋葉の唇を割ろうとすると慌てて俺から唇を離した。

「兄さんっ!どうしてこんな事をするんですかっ!」

 ――わからない

 秋葉は唇と拭いながら、俺をキッと厳しい瞳で見つめる。いつもの秋葉の顔
だったが、俺には恐くも何ともなかった。むしろ、こうやって腕の中で嫌がって
くれないと、やりがいがないじゃないか――そんなことまで考え始めていた。

「秋葉は俺のことが嫌いなのか?」

 こんな切り込んだ質問をするのに、俺はまったく動揺していなかった。
 秋葉の方は、俺の声を聞いてはっとするが、それにはすぐに答えることが出来
ない様子だった。唇を噛み、俺の顔を見ないで硬い表情で俺の胸元を見つめて
いる。

 動揺の色――それだけで十分だった。
 俺は、秋葉を堕とせる……その瞬間に悟っていた。

「俺のことを嫌いなら、俺の腕を振り払って逃げればいい。なんならば、お前
の純潔を汚した不埒者として俺をお前の力で殺せばいい。抵抗はしない――それ
に、俺が死んだ方がお前はずいぶん楽になるから、俺は思い残すことはない」

 俺の口は、まるで用意していたかのようにすらすらとこんな言葉を口走って
いた。そして、それは秋葉の抵抗できない部分に圧迫を掛ける言葉であること
も分かる。
 秋葉は泣き出しそうに顔をゆがめると、まだ自由な方の腕を俺の胸に付き、
心の中の苦しさを表すかのように、訥々と言い返してくる。

「そんな、兄さんのために苦しんでいると思ったことはありません。それに、
兄さんは兄さんなんです、嫌いになれるわけ無いではありませんか……でも、
兄さん?」

 秋葉はくしゃくしゃの顔で、俺を見上げる。
 なんで――今晩の秋葉は、どんな表情を見せても俺の中をかき立てるんだろうか?

 ――わからない

「兄さんには、シエルさんという付き合っている方がいらっしゃるんです。だから
私を女としてではなく、妹としてだけ愛してください……そうでなかったら私は
……」
「馬鹿」

 秋葉の懇願を、俺はすぐに切って返す。

「先輩も、アルクも、翡翠や琥珀さんだって……俺は女性として好きだ。秋葉、
お前だけ仲間はずれにするわけには行かないよ」

 秋葉の目から――一筋の涙がこぼれ落ちた。
 俺は、唇を寄せて秋葉の涙を舐め取る。秋葉の涙は純粋で、そのまま零れる
と真珠となるのではないのか……そんな事までつい考えてしまう。それよりも、
秋葉の涙を味わいたいと俺は感じていた。

 秋葉は、もう抵抗しなかった。腕の中で俺の身体にもたれ掛かると、そのまま
為すがままになっていた。俺の唇は再び秋葉の唇を奪うが、秋葉は逆に俺の唇に
舌を絡ませてくる。

「にい、さん……」

 秋葉の声が、甘く脳髄を射る。俺は秋葉の腕を放すと手を浴衣の上の薄い秋葉
の胸に触れる。そしてそのまま、胸の突起を探る様に動かしていくと――
 布越しに小さな突起が触れる。浴衣越しに乳首の形がはっきり触って取れる
感覚は、秋葉は下着を付けずいるんだと思う。

「秋葉の胸……」
「いや、兄さん……笑わないでください、私は胸が……小さいので……」
「可愛いよ、秋葉、それに感じやすいみたいだし」

 俺の指がこりこりと秋葉の乳首を弄ると、秋葉は唇を噛んであっ、と小さな
声を上げる。そして、こんな屋外で嬌声を上げたくないのか、指を噛んで我慢
しようとする。

「心配しないでいいよ、誰もここにはいないから。
 秋葉……下着付けていないんだ」

 俺がそのことを指摘すると、秋葉はかっと顔を赤らめる。祭は終わりに近づき、
空を照らすのは月と星の灯りだけになっても……秋葉の顔は不思議なぐらいよく
見えた。
 秋葉はもじもじとした様子で、俺に乳首を触られるままで答える。

「兄さん……そんな、恥ずかしいことを聞かないでください」
「ふーん、じゃ、付けてないんだね?」
「……その、和服用の下着は用意していなくて……琥珀が下着の線が見えるのは
みっともないって言うから……」

 秋葉は消え入りそうな声で、ぽつぽつと俺に答えていた。
 恥ずかしがる秋葉の様子に、俺は堪らなく――秋葉を苛めたくなっていた。

「じゃぁ、秋葉はノーパンノーブラで俺と一緒に祭に来ていたのか」
「やだ、兄さんそんな風に……」
「浴衣の下は素っ裸で、ずっと俺と一緒にいたわけか……違わないよな?秋葉」

 もう言い訳できなくなったのか、秋葉は真っ赤な顔のまま無言でこくりと頷く。
 俺の腕の中で、秋葉は――

「遠野家のお嬢様が、町の中をノーパンで歩いているのか。みんなに知らせて
やりたいな」
「やっ、だめっ、ダメです兄さんそんなのは――」

 辱めの気配を感じたのか、秋葉は急に俺の腕の中でもがき出す。だが、そんな
慌てる秋葉に俺は笑ってきゅ、と乳首を握ると――秋葉はびくん、と背中を震わ
せて動きを止める。苦痛と快感に身を竦ませる秋葉を俺は眺めていた。

「言わないよ、秋葉……秋葉は可愛い俺の妹だからな
 でも、その変わり……確かめさせて貰うよ」

 俺は秋葉の胸から手を離し、腰から下に回すと秋葉の浴衣の前を割って入る。
 秋葉のすべすべの太股の間に手を入れて、絹のような肌触りを楽しみながら
――俺は秋葉の股間に指を伸ばす。

 秋葉は……確かに下着を付けていなかった。
 俺の指には秋葉のうっすらと柔らかい陰毛の感触と、それにもう一つの違う
感覚がまとわりついている。

「やっ、やだっ、兄さん……」
「ほんとだ秋葉……下着付けてないな。
 それに、お前……濡れてるのか?ここ」

 秋葉の秘部は、うっすらと淫液を滲ませていた。俺の指が秋葉の内太股を撫で
ると、そこには液体が内側を伝った跡が感じ取れた。そして、下から秋葉の秘唇
を割って指を忍び込ませると、秋葉の中はぴちゃりと音を立てそうなほど潤って
いる。

「そっ、そんなことありません!」
「嘘。ほら、こうすると……」

 俺は秋葉の花弁に触り、それを揺するように擦る。指には柔らかい秘密の肉
の感覚があり、濡れた肉を俺に指が擦るたびに、秋葉は――

「あっ、あああーっ、兄さんっ、兄さんーーーッ!」
「ほら、感じているじゃないか秋葉……中からとろとろに……感じるのはここ
かな?」
「ひぃっ、あああぅあ!」

 俺の指が秋葉のクリトリスを、皮毎ぐにぐにと刺激した。中に硬くなった小さな
肉の感触がある。
 その瞬間、秋葉は喘ぎ声を上げて――足から力が抜けたようにしゃがみ込もうと
する。 
「おわっと……秋葉のここが一番感じるのか」
「ひゃ、ひゃう……兄さん……」

 俺は秋葉を支えると、濡れた指先を女陰から離して秋葉の顔を見る。秋葉の
顔は、性感帯を弄られ続けた快感で、いつもの緊張が解けた、奇妙ないやらしさ
を感じる表情になっていた。

 そんな秋葉に唇を合わせてキスすると、秋葉にそっと尋ねる。

「秋葉……俺のモノが欲しいか?」
「…………」

 秋葉はぼんやりしたような顔で答えなかった。だが、俺の身体に突く手が動き、
俺の身体を探っている。秋葉の手は俺の胸から臍の下に降り、浴衣の上から俺の
股間の硬い脹らみを撫でる。
 秋葉は……細くしなやかな指で、俺のモノをなで回している。

 俺は、再び秋葉の耳に唇を近づけ、言う。

「これが欲しいのか?秋葉」
「……はい、兄さんのおちんちんを……ください……」

 秋葉は、まるで爪でも立てるかのように――ぎゅっと俺の股間に指を立てた。

「じゃぁ、そこの木に腕を突いて、お尻を差し出して」

 俺が秋葉にそう告げると秋葉はのろのろと動きだし、側の杉の木に腕を掛ける。
 秋葉は上体を倒すようにして、お尻を突きだした。そして両手で浴衣の裾を
掴むと、俺の方に向けて――裾をまくり上げ、下半身を露わにした。

「……兄さん……どうぞ……」

 俺の目の前で、秋葉は浴衣をまくり、まっ白な足とお尻を突きだしている。
 月明かりに照らされた秋葉の肌は、白さと上気した紅さを秘めて、まるで白桃
のような瑞々しさ。そして、すらりと形のいい秋葉の尻の奥には、濡れた秋葉
の処女の秘唇が――唇を綻ばせ、俺を誘っていた。

 もう、なにも――分からない。

「秋葉……」

 俺は浴衣の裾をまくり、硬い俺のモノを取り出した。
 秋葉に近寄る足ももどかしい。秋葉は杉の幹に縋り付きながら、肩越しに振り
返って俺の様子を見つめていた。目は潤み、期待と快感に逆上せている。

 俺は片手で秋葉のお尻を掴んで広げ、片手で自分の物を握って添えながら――
秋葉の女性の中心、秘奥の窪みにてかてかと光るモノの先を押し当てる。

「に、兄さん……」

 秋葉の声を聞きながら、俺は硬く抵抗する秋葉の中に、かちかちの肉棒を進めて
いく。一番の抵抗を感じたが、そのまま構わずに押すと――

「兄さん……私の、私の処女を……貰ってくださいっ!
 やっ、やぁっ、やぁぁっぁぁ!」

 秋葉の秘肉の抵抗が僅かに弱まると、俺の肉棒は――秋葉の中を貫いていた。

「いやっ、痛いぃ……兄さんっ、やぁぁーーっ!」
「いいよ、秋葉……秋葉の中がきつくて……先輩よりも、ずっと……」

 俺は、秋葉の腰を両手で抱きしめ、腰を進める。
 秋葉の中を貫き、俺は――その回りから締め付ける感覚に酔いしれていた。
少しでも動かすと、ぎちぎちと秋葉の膣は俺をくわえ込む。

「ひっ、ひぃ……兄さん……いやぁっ!」
「秋葉……秋葉……ふぅあっ……ふっ……」

 俺は、秋葉に荒々しく腰を打ち付ける、俺の太股にも濡れた秋葉の淫液と血
が伝ってくる。秋葉は杉の幹を抱きしめ、頭を振って快感と苦痛に叫ぶ。
 秋葉の喘ぎ声と共に振られた、ツインテールの髪が闇に舞う。

「やぁぁぁ……はぁぁ……うっ、ああっ、兄さんっ!」

 なにも

 ぼくには

 わからない

「うぁっ……秋葉ぁっ!」

 どくっどくっ

 俺の股間が熱く迸り、秋葉の中に――処女の胎内に熱い白濁液をそそぎ込む。
 秋葉は背をしなうようにし、俺の奔騰を受け止める。
 俺は秋葉に深く腰を差し込んだまま顎を逸らし、宙を眺める。

 暗闇の中にぽっかり浮かぶ、銀の月。

 天に開いた、光の零れる夜の帳の節穴のような――

「ああ、なんでこんなに……月が綺麗なんだ……」

 花火のない空の、冷たく光る銀紙の月
 幸福は一瞬で空に散華して、無慈悲な女王が天から俺達を見下ろす。

 決して、月の下に棲む者を、幸福にさせまいとする夜の――支配者。
 俺は――月に――狂わされたのか――

「にい、さん……兄さん……」

 夢現の祭は終わり、俺と秋葉には……現世だけが残されていた。
 梶も帆も失った、波間に漂う虚船のような二人の……






<了>
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