この胸の想い、あなたに

雫〜しずく〜:月島瑠璃子
「月夜の晩に」






 今日は十五夜だね。
 満月の夜、溢れる月明かり。

 家を抜け出して、外に出よう。
 身体一杯に、月の光を浴びよう。

 月明かりは、地球の光。
 夜を反射している、宇宙の鏡。
 そして、狂気の象徴。

 ……ね、知ってた?
 月は、電波も反射しているんだよ。
 普段なら空へ逃げてしまう電波も、今日は空から降ってくるよ。






 外へ出て、高いところへ行こう。
 身体一杯で、月を感じよう。

 裏山の道を上る途中にも、電波がどんどん流れ込んでくる。

 いい夜だね。
 今日は、満月だもんね。






 ちちっ……ちりっ……。

 あ、この電波は。
 そう高くない山、山頂に着くとすぐに馴染みのある電波を感じたよ。

 もしかして、もしかして。

「やっぱり、長瀬ちゃんだ」

 私に向かって、にこっと笑っている長瀬ちゃんがいた。
 長瀬ちゃんも、電波を浴びに来たの?
 ここ、よく知ってたね。

「やぁ、瑠璃子さん」

 ちりちりちりちり。

 頭の奥をくすぐるような。
 そして、暖かい。

 長瀬ちゃんの電波って、好きだよ。

「瑠璃子さんも、電波を?」

「うん。満月の夜は、いい電波が見つかるからね」

 様々な電波が、夜を闊歩してる。
 月のせいだね、みんないつもより電波が多いよ。

「くすくす……」

「どうしたの、瑠璃子さん?」

「何でもないよ、ちょっと面白い電波があっただけ」

「どんな?」

 興味深そうに、長瀬ちゃんが私を見る。

「こんなのだよ」

 ちりっ……。

 たった今、見つけたばかりの電波。
 長瀬ちゃんにも送ってあげるね。

「へぇ……これは面白いね」

「でしょ? くすくす……」

「何かの機械の操作用の信号かな? でも、誰かの感情も混じってるね」

 初めてだよ、こんな不思議な電波は。

「さすが満月だね。珍しいものを見つけられたよ」

「とても強い電波だね」

「それだけ、想いが強いんだよ」

「誰を想って送ったのかな?」

 長瀬ちゃんは、ちょっと困った顔をして。

「さぁ……わからないな」

 ざぁっ……。

 ちょっとだけ強い風が吹いて、辺りの木々を揺らす。
 舞い散る葉っぱに囲まれながら、長瀬ちゃんがこっちに歩いてくるよ。

「長瀬ちゃんは、誰に電波を送りたいの?」

「瑠璃子さんは、誰から電波を送られたいの?」

 答える代わりに、電波を飛ばすよ。
 とびっきりの電波だよ。

 ちりちりちりちりちり……。

「ははは……ありがとう、瑠璃子さん」

「私も嬉しいよ、長瀬ちゃん」

 ちりちりちりちりちり……。

 私の電波と入れ違いに入ってきた長瀬ちゃんの電波を、頭の奥の隅の隅まで
行き渡らせて。

「ふふふ……長瀬ちゃん、これから電波を探しに行こうか」

 もっともっと一杯電波が集まるところを、探しに行こうよ。

「うん……瑠璃子さんとなら、どこへでも行くよ」

 そっと触れ合う手、重なる身体。
 月の明かりに照らされて、ちょっと恥ずかしいね。












「あれ? 瑠璃子さん、顔が赤いよ?」

「……長瀬ちゃんの電波、まだ残ってるから」

「そ、そうなんだ……」

 うん、そうだよ。
 ずっと取っておくんだよ。
 ずっと、大事にするからね。






 この今の気持ち、電波に乗せてみんなに飛ばそう。
 大きな大きな電波を、ゆっくりと夜空へ放とう。

 受け取った人が、微笑んでくれたらいいな。
 『気持ちのいい電波だね』って、思ってくれたらいいな。

 ちりちりちりちりちり……。

 そして、長瀬ちゃんの顔を見上げて。
 ちょっとだけ、微笑みながら。

「長瀬ちゃん……電波、届いた?」






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